top of page
t-zaidan

あひるの泉 明円光インタビュー(地域貢献スペース/立川)

多摩信用金庫本店2階ギャラリー(地域貢献スペース)では、明円光による個展「あひるの泉」を2024年10月11日(金)まで開催しています。

出品作家の明円さんに、作品制作と展示におけるこだわりや、制作のプロセスなどについてお聞きしました。


(聞き手・文:たましん美術館学芸員 佐藤)





――当ギャラリーを知ったきっかけ、展示を企画した経緯を教えてください。


今回出品した作品にも描かれている姪っ子を連れて訪れるなど、オープン当初からよくグリーンスプリングスに来ていたんです。それである時、このギャラリーで展示が行われていることに気づいて、展示の申込用紙も見つけたので応募してみようと。ただ、せっかくいいスペースだし、いい展示も行われているのに、意外と外から目に付きづらいことが気になりました。そこで、外からもよく見えて人がたくさん来てくれる展示をここでやりたいと思ったんですよね。「姪っ子に見せたいな」という気持ちもあって企画した展示です。


――スペースの形と作品のスケールが合っている展示だと思いました。歩き回りながら見たり、いろんな距離から見たりすることが楽しめる展示ですよね。


ほぼ、真っ直ぐな壁面だけの場所なので、展示の構成としては考えやすかったです。いつも、なるべく新作のみで展示するように心がけていましたが、今回初めて旧作が多めな展示になりました。突き当たりの壁に展示したモザイクのような作品は、離れて見ないと見えない絵なので、距離を計算して展示しました。


――鑑賞者がここに来てどのように作品を見るかとか、ここに来るまでにどういうものが目に入るかなど、そういったものを意識した展示で、展示構成としてはシンプルに見えますがしっかりと計画された展示なのだなと感じます。


普通のホワイトキューブの展示だと、その展示を狙って入ったお客さんが見てくれますが、ここは半分パブリックというか、ふらりと入って来やすいところなので、通りすがりの人にも食いついてもらいたいという気持ちがありました。普通のギャラリーでの展示以上に気をつかいましたね。


――展示を企画するにあたって、重要視したところを教えてください。


とにかく、噴水越しに展示を見た時の見栄えですよね。ここで展示をやるからには、絶対に噴水をテーマにするというのは決めていたので。借景というか、噴水を使えば、グリーンスプリングス全体を展示場所にすることもできると思いました。実際、噴水の向こうの茂みから見ても、面白く見えると思います。


――会場の特性に着目するということは普段の展示を行う上でも強く意識されますか。


僕はいつもそうですね。展示が決まると、まず会場の見取り図をもらって構成を考えます。なので、作品単体のことを考えることはあまりなくて、だいたい、空間と作品をセットで考えることが多いんです。個展という形の中に作品をはめ込んでいく、という意識があります。この会場は天井が高いということも一つアイデアのベースとして意識したのですが、横に長いことと、噴水があるということが大きかったです。


――制作のテーマや、こだわりについても教えてください。


「自分の身近にあるもの」が制作のテーマになっています。スーパーで売っているネギだとか、その辺にあるもので、見過ごされがちなものを取り上げて、それらの見方を少し変えて提示すること、それが面白いのではないかと思っています。今まで見えなかった世界が見えてくることもあると思います。普段みんなが気にしないものを取り上げたいと思って制作していますね。

僕の展示はいつも、現代アートにふれるための入り口として、橋渡しになればいいなと思っているんです。現代アートって、難しい展示がたくさんありますよね、例えば、バナナが壁面にダクトテープで留めてあって、解説文も何もなくて…という作品があります。単に見ただけでは美しくはないし、こちらから意味を調べなきゃわからない、でも意味がわかると面白い。そういう展示をもっと多くの人に見に行ってほしいんですが、僕の展示を見て現代アートに触れる練習を積んでほしい、というような気持ちがありますね。僕の絵を見て、単純に「可愛い!」という反応をしていただいてももちろんよくて。ただ、もう少し掘ってもらえたら深い意味がある、というようなことを伝えられたらと思います。「あひるが可愛い」というところから、今回の展示であれば、マルセル・デュシャンの有名な作品が元になっていることを知ってほしい。他に、アンディ・ウォーホルのオマージュをした作品もあります。僕の展示を鑑賞した人が、これを入り口として、もう少し難しい内容の展示にも足を踏み入れてほしいという気持ちがあります。


――それぞれの作品について具体的に教えていただけますか。


まず《あひると泉》は、先ほどもお話ししましたが、デュシャンというアーティストを知って、現代アートに関心を持ってほしいなという思いを込めた作品です。ちょっとバンクシーっぽい感じを意識して描きました。会場から見える噴水のことを意識した時に、真っ先に思いついたのがデュシャンの《泉》と呼ばれる作品でした。僕は元々展示でよくインスタレーションを手がけてきましたので、デュシャンは意識せざるを得ない作家です。アートが好きな人にとってはデュシャンという作家は常識みたいなものですが、知らない人も多いようです。でも、パブリックな場所に現代美術において重要な作家であるデュシャンを思わせる作品を置くことで、彼のことを知ってもらえたらと。インターネットで検索してみるだけでもよいので、少しでも彼のことを知ってもらえれば、展示もより楽しんでもらえると思っています。


《あひると泉》

《あひる》は、横幅約 8 メートルの大きな作品で、ギャラリーやホテルで展示したこともありましたが「ここで噴水越しに見てみたい!」と思った作品です。


グリーンスプリングス2階噴水越しの《あひる》

その隣の噴水の絵《SPRING》は、今ハマっている、丸めたアルミホイル等に絵の具をつけて描くというやり方で描いた作品です。筆で描いていない風合いを出したかったんですよね。


《SPRING》

そして、《SPRING》右側の作品《噴水を見つめる》は、タイトルの通り、噴水を見つめる姪を描いた作品ですが、1歳の誕生日に本人にプレゼントした絵です。視線の先に噴水の絵を並べることで、彼女が噴水を見ているかのように配置してみました。


《噴水を見つめる》

またその右側の丸い絵《あひる》は、アンディ・ウォーホルを意識して制作しました。プリントのようにも見えますが、あえて全て手描きで描いています。金と銀の絵の具で塗った背景が、、日の光によって見え方が変わることも狙いました。全体的に広がりが感じられるような配置も意識しています。

《あひる》

最後に、通路突き当たりのモザイクの絵《あひる》は、会場が横に長いため、引きが充分に取れる場であることを意識しています。「このくらいの距離で、このくらいのモザイクの大きさであればギリギリあひるに見える」ということも計算して制作しています。


《あひる》


――明円さんといえば、やはり、あひるのイメージが強いのですが、モチーフの選択についてもお聞きしたいです。先ほどの制作テーマのお話にもつながってくるかと思いますが、どのようなお考えがあるのでしょうか。


あひるのモチーフを取り上げたのは 2011年の震災の後ですね、大学を卒業した翌年あたりです。その年はアーティストがみんな暗い絵を描いていたんです。コンクールで大賞をとった絵が瓦礫の絵だったり、真っ暗な絵ばかりでした。被災者や被災地の追悼のため、何かしないと、という気持ちをみんな持っていました。自分も暗い絵を描いていた時期がありましたが、ある日「一番明るいものが描きたい」と思い立って、あひるのおもちゃをモチーフにした 100 号の絵を描きました。それがあひるとの出会いでしたね。「これを100号で描けば、笑えるんじゃないかな」と。


――明円さんの絵画表現は、具象的なものから、フラットなものまで、幅広いですよね。そのことも明円さんの作品のポイントであると思いますが、どのようなお考えがあるのでしょうか。


そのことは、ちょっと前まで悩みでした。僕は器用貧乏で、基本的にはどのような作風でもある程度の絵が描けるのですが、ある時、いろんな作風で描いていると個性がないなと気が付きました。例えばゴッホって、どんな絵でも、ゴッホの絵だって気づけるけれど、僕の絵ってモチーフを変えたらおそらく気づかれないんですよね、僕の個性が作風でなくモチーフになっちゃってるなと悩みました。でも、「個性がないことが個性」かもなということで、「自分の全部を出してしまおう!」という気持ちになりまして、その結果が、今年コート・ギャラリー国立で行った展示「PIS!」でした。同じモチーフを全部違う作風で絵を描いてみようと思って制作した絵たちで構成しました。今回の地域貢献スペースでの展示も、「あひると噴水」をテーマにしたグループ展みたいに見えなくもないかもしれません。


――影響を受けた作家のことについてもお聞きしたいです。


北海道にいた頃はクラシックなものが好きで、佐伯祐三とか、ゴテゴテとしたマチエールの絵画が好きでした。上京してきてから、現代アートというものに触れて。色々な作家が好きですが中でもアンディ・ウォーホルが一番好きです。ウォーホルの、言葉がすべてウソな感じが好きなんです。また、彼が正方形の絵ばかり描いているというところにも影響を受けていて、自分も正方形だったり正円の絵を多く描いています。

また、大学時代からお世話になっている遠藤彰子先生から、作品のサイズ感など、影響を受けているかもしれません。大きな絵が好きですね。パソコンで下絵をつくっているので最終的な作品のサイズというのはどうとでもできるのですが、できるなら全て大きくしたいという気持ちがあります。


――パソコンでの制作というお話がありましたが、普段の制作プロセスについて教えていただきたいです。


はい、僕の制作のほとんどはパソコンの前で行われます。

撮影した写真をフォトショップ等で加工して、そこで構図を色々と計算して下絵のデータをつくります。データができたらプロジェクターで投影してなぞって描いています。最近はなるべくペーパーレスにしようと思っていて、印刷もせずに、タブレット端末で画像を見ながら描いていきます。


――学生時代からそういったコンピューターのソフトなどを使用して制作していたのですか?


そうですね。

エスキースも紙でなくタブレットで行ってしまいます。この制作手法には自然と行き着きましたね。プロジェクターを用いて絵を描くというのは、フェルメールがカメラオブスキュラを用いて行っていた制作と同じようなものですから、そこまで新しい方法という訳ではないのですが…。


――最後に今後の展望について教えてください。


対象年齢を下げた展示をしすぎたかなという気持ちが少しありまして、もう少し難しい展示もやってみたいという気持ちがあります。例えば「アブストラクト・ペインティング」と呼ばれるような作品による展示など、これまで行ってきたような大人から子どもまでをターゲットにした展示以外に、対象年齢を上げて、大人向けの内容の展覧会をしてみたいです。そんな展示を子どもたちが見たときのリアクションも見てみたいです。

また、僕は2006年に上京してからもう18年ほど多摩地域に暮らしています。今までは都心での活動が多かったですが、この地域に根ざした仕事も増やしていけたらと思っています。




インタビュー実施日:2024年9月14日

 

明円光 展 あひるの泉

会期|2024年9月2日(月)〜10月11日(金)

利用可能時間|午前8時〜午後9時

入場料|無料

会場|多摩信用金庫本店本部棟2階ギャラリー(地域貢献スペース)

         〒190-8681 東京都立川市緑町3-4 多摩信用金庫本店2階

お問い合わせ|042-526-7788(たましん美術館)



Comments


bottom of page