伊藤朋子展 日々を記す インタビュー(地域貢献スペース/立川)
- t-zaidan
- 4月16日
- 読了時間: 6分
多摩信用金庫2階ギャラリー(地域貢献スペース)では、若手アーティスト部門の審査を通過した一人目の作家、伊藤 朋子(いとう ともこ)による個展「伊藤朋子展 日々を記す」を2025年5月23日(金)まで開催しています。
出品作家の伊藤さんに制作のプロセスや作品の意図についてお話をお聞きしました。
(聞き手・文:たましん美術館学芸員 村山)

――女子美術大学で学部の時から洋画を専攻されたということですが、油彩画を主に学んできたのでしょうか。
(美大に進んだのは)中学・高校と吹奏楽部だったのですが、ずっと絵を描くことは好きで、高校3年の進路相談の際に美術の先生を紹介され、油彩を習ったことがきっかけです。当時は美術の先生になれたらと思って教員免許もとったのですが、学校では自分の作品制作がなかなかできないと知って、今は自分の作品を描きたい気持ちの方が大きくなっています。(女子美術大学の洋画専攻は)油彩の他、立体、インスタレーション、写真など様々なジャンルを学び、その中で手段を選択していくので、自由度が高い科だと思います。私が最終的に油彩を選んだ理由は、卒業制作に際して大作に取り組む段階になって、一番自分のスタイルにはまると気づき(高校生の頃の)原点に戻ろうと思ったためです。
修士課程の指導教官は立体作品を作られる先生でしたが、引き続き油彩で描いています。先生には各地を回ってスケッチするという一面もあって、その点は自分にも近いと思います。
――配布しているポストカードのテキストに、伊藤さんの言葉として、「写真のように見られたくない」とあるのがとても印象的です。
これは、高校の先生から言われた「写真のように描くのではなく見えたものを見えたままに描きなさい」という言葉に影響を受けたものです。機械とフィルムを通して形にする「写真」に対して、「絵画」は、人間を通して描く表現であり、自分が感じたことを表現するということを意味しています。
――「見えたままに描く」といった場合、一般的には写実的に描くことと捉えがちかもしれません。写真との違いは、具体的にどういう点に現れると思いますか。
例えば、(出品作品の最初は)「とある朝」という作品ですが、自分がこの日の朝に感じた晴れやかな気持ちを表そうとしています。朝の香り、強い光、さらに自分の体調など、五感で味わったものを含めて表現するのです。モチーフは身の回りの物、実感のわいたもので、現実にないものを描くことはできません。近年はあきる野の風景がほとんどです。ただ、どこの景色か特定しなくてもよくて、見た人の何かの記憶に触れたらよいと思います。

また出品作品の最初の5点は、夏の絵なのですが、お盆の時期に亡くなった父のための送り火と迎え火をテーマにしています。(行事を描くというより)その日に印象的だったもの、自分が感じたものを、記録に残したいという思いで描いています。


――絵の大きさには何か意図がありますか?
(前半にある)小さな絵は、主として、はがきサイズの作品という条件付きの展覧会用に制作したものです。この時に手で持てるもの、身近な大切なものを描いたことで、それらに対して愛着が持てるようになり、その後も同様のものを描く場合小さいサイズを選ぶことがあります。

――こちらの絵は海外のカフェのようです。
池袋のビアガーデンです。友人から誘われてライブペイントで描きました。いかにして手数を減らせるかあらかじめ練習したり、最後まで描き切れず家で仕上げたり、緊張感の中で描くという経験も含めていい勉強になりました。

――普段はどのような手順で描きますか?
道具などを持ち合わせていないときに描きたいものがあった場合は写真に撮って、覚えておいて家で描くこともあります。ただ、写真の中に本当に自分が感じたものがあるわけではなくて、いわば(見た時の感覚に)戻るための素材です。その時感じたことや色などがわからなくならないように、その場でできるだけスケッチしたり、iPhoneのアプリを使って見えている色をデジタルで残しておいたりします。
DMにも使った洞窟の絵は、小さい方が直接現地に通って描いたものです。場所はあきる野の網代弁天山にある洞窟です。個展で知り合ったアーティストの友人に連れて行ってもらいました。入った時には怖いと思ったのですが、次第に何となく安心して、包まれているという感覚に変化しました。洞窟の中から外を眺めていると、自分と向き合えるような、癒されるような気持ちになったのです。穴から入ってくるのが唯一の光なので、何色を置いているかもわからないほどの暗さでしたが、見える色を置いていきました。パステルやクレヨンでも描いてみたのですが、最終的に、「包まれている」という感覚を出すにはスケールが足りないと思い、大きなサイズで再度描きました。

――どの作品も光の捉え方が印象的です。
絵を描き続けたいと思うきっかけとなったのは、ゴッホの絵です。光を捉える明るい絵は、描く喜びが感じられます。光をどれだけ画面に落とせるか、感動したものをどれだけ画面に映せるかを考えています。
こちらの夜景も映り込みの美しさに見とれて、描きとめて、そのあと大きくした作品です。

――「日々を記す」というタイトルにはどのような思いが込められているのですか?
一秒ごとに変わっていくものを、描いて残していきたいという思いがあります。父が亡くなった時に、誰の記憶からも(その人の存在が)消えてしまった時、本当の死が訪れるのではないかと感じました。その記憶をとどめておくために描くという面があります。他人に見てもらうために描くというわけではないのですが、見た人にとっても、ふとした記憶がよみがえったり、忘れていた引き出しが開いたりすることがあれば、嬉しく思います。
――地域貢献スペースについては、どのように知ったのでしょうか?
澤井昌平さんが展示されていたのを見に来て、素敵な場所だと感じました。自然光が入ることに魅力を感じますし、よくあるコンクリート打ちっぱなしや白い壁のギャラリーはおしゃれですが、ここは木材という自然物が入っていることで安心感があります。空間としても閉鎖的でなく、見る人にとってのハードルが低いところがよいです。自分がこの空間でしっかり展示できるか不安もありましたが、何とかなってよかったです。

――今後はどのようなことがしてみたいですか?
これからも大きい作品を公募などに出したいですし、また通常のギャラリーと違った場所でも展示をしていきたいと思います。
――いろいろな場所で拝見したいです。本日はありがとうございました。
インタビュー実施日:2025年4月6日
伊藤朋子 展 日々を記す
会期|2025年4月7日(月)〜5月23日(金)
利用可能時間|午前8時〜午後9時
入場料|無料
会場|多摩信用金庫本店本部棟2階ギャラリー(地域貢献スペース)
〒190-8681 東京都立川市緑町3-4 多摩信用金庫本店2階
お問い合わせ|042-526-7788(たましん美術館)

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